翻訳の一例
弊社の得意とする「制度翻訳」。制度翻訳とは、日本の制度上の概念を翻訳する際に、単なる表面上の漢字の訳ではなく背景となる意味をつかみ、さらに説明調に長くなりすぎることを避け、元の表形式に収まるように単語の選び方、表現の仕方を工夫し、それでも長い場合は単にフォントを小さくするのではなく、行間調整、インデント調整を施し原文どおりにレイアウトさせる一連の作業のことを言います。
例えば戸籍、住民票に出てくる「筆頭者」「世帯主」、旧民法に基づき作成された戸籍の除籍謄本などで見かける「戸主」の違いを英訳を例に整理してみましょう。
筆頭者:
戸籍の概念で、戸籍の最初に書かれた人。戸籍を識別するための存在であり、法的権限なし。
➡Person appearing first in the family register
世帯主:
住民基本台帳の概念で、同居単位の世帯の代表者。同一生計のニュアンスもあります。法的権限なし。
➡Head of household
戸主:
旧民法の家制度に基づく概念で、家を代表し統率する地位。家督相続や家族の身分関係に関する法的権限あり。
➡Head of family
日本の制度を深く知らない訳者が訳せば全てHead of householdかHead of familyと訳してしまうかもしれません。しかし、文書の種類や制度上の位置付けを正しく理解し、書類ごとに一貫した訳語を用いるためには、日本の制度そのものへの理解が不可欠です。
次に住民票に出てくる「転入」「転出」「転居」「異動」を整理してみましょう。
日本の住民票は自治体ごとに管理される制度であり、住所の変更方法によって用語が厳密に使い分けられています。そのため、これらを正しく英訳するためには、日本の住民基本台帳制度への理解が不可欠です。
転入:
他の自治体から当該自治体へ住所を移すこと
➡例)「転入届出」:Moving-in notification、「〇月×日転入」:Moved in on...。
転出:
当該自治体から他の自治体へ住所を移すこと
➡例)「転出先」:Place moved to、「〇月×日~へ転出」:Moved to...on...。
転居:
同一自治体内で住所を変更すること
➡例)「〇月×日~から転居」:Relocated here from...on...。
異動:
住民基本台帳上の記載事項に変化が生じること。住所変更だけでなく、世帯主変更などの事由を含む
➡例)「異動年月日」:Date of change
これらはいずれも「住所が変わる」という点では似ていますが、日本の制度上の意味はそれぞれ異なります。そのため、単純にすべてを move と訳してしまうと、本来の意味の違いが失われてしまいます。
弊社では単に言葉を置き換えるのではなく、制度上の意味や文書の役割を確認した上で、書類全体を通じて一貫性のある翻訳を心掛けています。

